ネット不動産フロンティアノート



【第9章】ホームページの運営

9-(5) 企業理念・ミッションの発信

不動産仲介業に限らず、ネットビジネスの成功のカギは、オンライン(インターネット活用)とオフライン(実店舗での接客)をいかに融合されるかにあるとされています。

目先の営業利益の追求でない、10年、20年、50年のスパンで考えた場合の企業の成長を支えるものは何でしょうか。 それは企業戦略であり、その企業戦略の基礎となるのが使命・ビジョン・価値観なのです。

創業時に掲げた使命・ビジョンを、企業理念、企業の文化として、企業の風土・習慣として定着させるまで努めることが、現代の経営者には求められているのです。

しかも、企業文化をオンライン(インターネット・ホームページ)上でも、オフライン(実店舗の運営)上でも、日常化・現実化することが求められているわけです。

企業が、この不況を乗り越え、勝ち残るための戦略には、周りからの支援も不可欠です。

それは、社員・スタッフからの支援であり、お客さまからの支持であり、取引先・同業者からの応援です。さらに加えるならば、世の中からの応援も必要ですし、時代の後押しも求められます。

考えてみれば、企業の経営者は、自分の人生設計と会社の経営設計(企業戦略)を重ね合わせ、同時進行の自己決定ができる、ある意味では非常に恵まれた立場にあります。

自分の判断と責任で自己の人生を決めることができ、自分の会社を運営できる立場にある中小企業の経営者にとって、インターネットが普及し、ビジネスモデルが大きく変わろうとしているこの時代は、「チャンス到来・我が世の春」と言えるのではないでしょうか。

不動産仲介業も大改革の時代です。

○ お客さまにとって、生活・経済活動の基盤である土地と建物にかかわる仕事に従事できること。

○ 世の中と時代は不動産流通業の近代化・透明化を求めていること。

○ 真の顧客利益の追求と専門性の高い人材による安心・安全な不動産取引がもとめられていること。

この現実を直視すれば、不動産流通業に携わる者として、「経営理念」「企業としてのミッション」が生じないはずがありません。

時代が不動産仲介業者に求めている「使命」とは何でしょうか。それは、仲介業者とお客さまの意識改革であり、相互理解の深化ではないでしょうか。

さらには、企業経営における高い倫理性と社員の「人財化」であり、その結果としての不動産仲介業の社会的地位の向上ではないでしょうか。

時代が大きく変動し、先行きの不透明感を強めているこの時、インターネットの活用に活路を見出そうとしている不動産仲介業者が描くビジョンとは何でしょうか。

それは、ネットという最新・最強の近代兵器をフルに活用し、自分のフィールド(戦場)で、高度な、差別化された、新たなサービスを提供し、仲介サービスの「価値の創造」にチャレンジすることから生まれるのではないでしょうか。

サービス業とは、新しいサービスの提供とサービスのレベルを上げることで成長・繁栄のできる業種です。そのためにはトライ&エラーを繰り返し、試行錯誤の経験を全国の志を同じくする同業者との本音レベルで交流することも不可欠です。

このフロンティアノートを書き続けた結果として、少なからぬ同業者の方から熱いメッセージをいただきました。ゆくゆくは、ネット不動産全国協議会(フロンティア・ネットワーク)の立ち上げも射程に入れて考えております。

大阪在住の流通業コンサルタントであり、有料メールマガジン(ビジネス知識源)の発行では断突の実績を持つ吉田繁治氏は、「企業理念」「企業文化」を以下の3区分に分類しています。

(1) 官僚組織や大企業、伝統文化継承業界に多くみられる「消極的防衛的文化」で、承認文化・伝統文化・依存文化を特徴としており長期衰退に向かう企業・組織に多い企業文化。

(2) 対立文化、権力文化、競争文化、完璧文化等を内容とする「積極的防衛文化」で、危機対応型・短期業績型で、長期では問題を起こすことが多いとされる企業文化。

(3) 達成文化、自己実現文化、人間性重視文化、提携文化を主軸とする「建設的文化」で、長期的な成長・長期での生き残りを目ざす企業が目標とすべき企業文化。

この企業文化の3分類を不動産仲介業にあてはめて考えるとどうなるでしょうか。

(1)の消極的防衛文化は、大半の大手仲介業にあてはまるのではないでしょうか?

大手としてのブランド力、看板に依存し、両手狙いの情報の囲い込みから脱却できない体質は、消極的防衛文化そのものだと言っても過言ではありません。

大手に限らず、賃貸物件管理依存型の地域密着仲介業者も、この消極的防衛文化に陥りやすい体質です。

(2)の積極的防衛文化も、大手や中堅企業に多くみられる体質ではないでしょうか。

部下には多大なノルマを押しつけ、成果は自分のものにする。同僚は競争相手であり、社員間でも情報やノウハウを囲い込む。自分の成績を上げるために、お客さまに不利なことでも平気で押しつける。長時間労働と勤勉が求められ、少数の成功者と、多くの脱落者を生む企業文化を持つ企業に未来があるとは思えません。

このフロンティアノートの読者の中にも、大手仲介業やマンションデベロッパーの営業マンが何人かいます。

これらの人から、真にお客さまの為ではない所属する会社の営業方針に疑問を覚え、フロンティアノートの説く経営理念に共感して、独立を考えたいとの相談をいただくことがあります。

インターネットを活用した不動産仲介業が大きく変化しつつあるこの時代に、共に新しい時代を切り拓く同志として連携を強めていく必要性を強く感じています。

(3)の建設的文化こそが、新しい時代を切り拓き、不透明感に満ちた業界体質を変革する先頭ランナーとしてのネット不動産業者に求められるものではないでしょうか。

○ 現実的な目標を持ち、現場・スタッフが方法を工夫する体質。
○ 問題発生があっても、成果責任とマネジメントの権限を持つ「現場」が対応できる体制の確立。
○ 顧客を大切に取扱い、メンバーは健康的に仕事ができ、仕事のやりがい(達成感)を持つことができる。

これが「達成文化」の特徴であり、時代が求めているものです。

建設的文化には、「自己実現文化」「人間性促進文化」としての特徴もあります。

それは、
○ 個人の独創性、創造力、工夫を重視することである。
○ メンバーが情報を共有し、協力し、助け合う。
○ メンバーは、成果が見えるから楽しみながら仕事をする。
○ 会社はメンバーの成長を助け、長所を伸ばし、成長を重視する。
という企業文化であり、結果として、リクルート人気も高いという効果も期待できます。

ネット不動産の現実の姿は、まだまだ、個人企業や零細企業レベルの会社が大部分ですが、その社会的使命、歴史的使命は決して小さいものではありません。

今は生業レベルだとしても、せめて、企業文化、企業の志ぐらいは大きく、高く掲げるべきではないでしょうか。

企業理念、企業の志の高さが行間からにじみ出るようなホームページこそが、お客さまの信頼を獲得できる唯一、最大のホームページ運営のノウハウなのではないでしょうか。

個々の企業としては、生業レベル・零細企業であっても、ホームページ運営のノウハウを共有し、真にお客さまの立場・利益を考えた不動産仲介業者の全国ネットワークができれば、わが国の不動産仲介業が大きく変化するこの時代にあって、一定の力を発揮することができるのではないでしょうか。

わが国ではあまり知られていませんが、「アドボカシーマーケティング」という経営戦略があります。

フロンティアノートで繰り返し述べてきた内容とほぼ同じことを、より理論的にまとめた経営戦略論です。

結論的に言えば、ネット中心の不動産仲介業の基本戦略は「アドボカシーマーケティング」にこそあるということですが、ここでは、「企業文化」「企業理念」のホームページによる発信という側面から取り上げることにします。

アドボカシー(お客さま支援)マーケティングとは以下のように定義されます。

「顧客主導の時代に、信頼される企業を目指すには、公正・公平なあらゆる情報を開示し、中立的なアドバイスに徹するべきである。顧客を徹底的に支援(advocate)することによって、顧客の長期的な信頼を得ることができる。一見、常識に反するようだが、自社商品・サービスが他社商品・サービスよりも劣る場合は、他社商品・サービスを正直に勧めるくらい、顧客に対して透明かつ誠実に対応すべきである」というものです。

これを実践するには、大前提として、自社が参入している分野において、まず、競合他社以上に優れた商品・サービスを開発・提供しなければならないことになります。

顧客主導の時代にあって、不動産仲介業者は、客観的かつ中立的立場を保ちながらも、顧客本位・購買代理的な役割が強く求められています。

インターネットを全面的に活用するネット不動産業者は、この「時代が求めている役割」を果たすことのできる仲介業界における唯一の存在だといっても言いすぎではありません。

アドボカシーマーケティングの要点は、「お客さまの購買行動において、お客さまが最善の決断を下せるよう力を貸すこと」にあります。

アドボカシー戦略を採用するのに適した業種・業界は以下の特徴を有するものだとされています。

○ 商品・サービスが複雑である。
○ 商品・サービスに対する顧客の関係・関心が深い。
○ 顧客が間違った商品・サービスを選んだ場合の損害リスクが高い。
○ 入手可能な商品・サービスの種類が多い。
○ 商品・サービスの情報量が多い。

いずれの項目も、情報過多時代の住宅購入という消費者行動にあてはまるだけでなく、不動産仲介業者がホームページ上で何をなすべきかを示すものです。

今年の正月休みに、「アドボカシー・マーケティング」(グレン・アーバン著、英治出版2006年刊)を一気に読んだ時、アドボカシー・マーケティングとは、インターネット時代を迎えたわが国の不動産仲介業者のために書かれた経営学の教科書ではないかと思ったぐらいです。

私自身、ホームページ上で企業理念をいかに伝えるべきかについては、多くの試行錯誤を繰りかえしてきました。

当社のホームページでは、お客さまの声欄に、他社で決まったお客さまの声も数多く掲載しています。特に初期の頃はそうでした。

物件は他社で決めたけれども、当社の情報提供、アドバイス、サポートに感謝しているという手紙やメールを少なからずいただいたからです。

「不動産業戦略家」としてこの業界では著名な九州在住の不動産仲介業コンサルタント氏が、当社のお客さまの声欄に他社で決まった「お客さまの声」が載っているのを見て、わざわざ電話をかけてきました。

「お客さまの声欄に、他決(他社で決まったお客さまを指す業界用語)のお客さまの事例を載せるのはすぐに止めなさい。お客さまに他決を勧めるような行為はすぐに中止しなさい」という命令調のアドバイスでした。

大ベテランのコンサルタント氏の不動産仲介業戦略を全面的に信頼し、忠実に実践を重ねてきたのですが、この忠告・アドバイスには反発を超えた、「嫌悪感」を覚えました。

もちろん、他決のお客さまの声を載せることを止めたりはしませんでした。

しかし、住宅購入に際して悩み、迷い、相談してくるお客さまを本気でサポートし、結果として他社で物件購入を決めたお客さまから寄せられた「感謝の気持ち」は、当社にとっての「宝物」ではないかという判断と、業界の大ベテラン氏のアドバイスのどちらが正しいのかという点で全く迷いがなかったと言えばウソになります。

少なからず迷い、悩みました。「アドボカシー・マーケティング」に出会えたことで、この迷いは全面的に解決しました。

○ 結果として、自社の商品やサービスを買ってもらえなかったとしても、お客さまに好感は持ってもらえた。
○ 企業の評価は、お客さまが商品やサービスを選択する場合、その企業がどれだけサポートしてくれたかで決まる。
○ 企業活動の中心は「信頼貯金」を獲得し、積み上げることにある。

このアドボカシー戦略の考えに基づけば、他社で決まった「お客さまの声」をホームページに載せることは、理の当然、あたり前のことです。

アドボカシー・マーケティングが説く「信頼創出」の企業文化は、お客さまだけでなく、社員や取引先、同業者の信頼獲得にもつながります。

住宅購入のお客さまを、仲介業者が一回限りのお客さまとみるか、縁のできたお客さま、信頼関係のできた、長いおつきあいのできるお客さまとして見るかによって、お客さまに向き合う「企業文化」は大きく違ってきます。

インターネットが普及し、情報過多の時代にあっても、信頼関係のできたお客さまが、他の「お客さま候補」との接触、交わりの中で、自社の宣伝マン、広報マンとしての役割を果たしてくれる効果は決して小さいものではないはずです。

アドボカシー・マーケティングにも問題・課題があります。

アドボカシー・マーケティングを採用し、全面移行する上での最大の問題は「時間」です。お客さまの信頼を獲得するには時間がかかるからです。

たとえ時間がかかっても、ホームページの運営の基本を、お客さまの立場・利益に徹し、お客さまの立場に立って考え、実行すること以外に道はあるでしょうか。

お客さまは何を考え、抱えている問題は何か、住宅購入の過程での悩みや迷いは何か、どんな情報の集め方をしているのか……、についてお客さまから学ぶ以外に道はないのです。

ホームページ運営の基本、究極の目標は、ホームページによる「おもてなし」にあることが知られるようになってきました。

この「おもてなし」のノウハウは一朝一夕で身につくものではありません。

女将やコンシェルジェ、カリスマ店員など現実世界での「おもてなし」の達人と言われる人は、本気で取り組み、工夫を重ね、自分の頭で考え、お客さまから学んで、ようやく達人の域に達したに違いありません。

不動産仲介業者がホームページを導入し始めてまだ10年程度です。現実の世界での「おもてなし」の達人から学ぶことも、まだまだ多くあるはずです。加えて、インターネットに代表されるICT(情報通信技術)が得意とする「顧客行動分析」の力を借りることもできるわけですから、ホームページによる「おもてなし」も決して不可能ではないはずです。

「おもてなし」の達人とは、お客さまが何を求めているのか、何に困っているのかを理解し、お客さまの期待以上の価値を提供できる人だとされています。

ホームページでこれを実現するためのは、お客さまの「属性」、「行動」、「声」を正確に理解することが前提となるわけです。

会員登録による属性分析、アクセス履歴による行動分析、お客さまの声に耳を傾けることによって、お客さまの「心」の「見える化」も不可能ではないはずです。さらに、一歩進んだ「行動予測」も可能になるのではないでしょうか。

「見える化」といえば、わが国の不動産仲介業界に、今、一番求められているものは、不透明性の除去、つまり「見える化」です。

ホームページを単なる物件情報発信の窓口としてだけでなく、業界が抱える問題点・課題を提起し、解決の方向を提示する役割も担わせるのは荷が重すぎることでしょうか。

ネット時代・情報化時代のお客さまの変化・進化はとどまるところを知りません。単なる物件情報の入手だけでなく、業界の問題点についても、お客さまは知りたい、見たい、本当のことを分かりたいとなるのは時間の問題です。

だとしたら、ホームページは、お客さまの変化・進化を先取りする気構えで、不動産仲介業界の「見える化」の役割を果たすべきではないでしょうか。

不透明感の強い不動産仲介業界のなかで、問題提起を積極的に行うホームページは、お客さまの支持と信頼を必ず獲得できるはずだと考えるのは「書生論」に過ぎるでしょうか。

「書生論」といえば、「弁証法」を現代社会に適用し、新鮮かつ鋭い分析で名高い田坂広志氏の「操作主義との決別」にふれないわけにはいきません。

誤解のないように申し添えますが、田坂氏の論理が「書生論」だと言っているのではありません。書生、つまり、勉学を志す者すべてに理解できるように論じ、しかも、あるべき姿、未来論にもふれているという意味での「書生論」です。

田坂氏は「目に見えない資本主義」(東洋経済新報社、2009年刊)で、資本主義の未来について論じ、一つの方向性として、「操作主義との決別」を示しています。

操作主義の決別を論ずるなかで、ホームページのあり方にもふれている部分について、以下にご紹介します。(文責はあくまでも筆者です)

多くのホームページが「操作主義」、つまり、「消費者(アクセス客)を、企業の望む方向に操ろうとする発想」に陥っています。

つまり、
「いかにして、顧客の注意を、この商品に向けさせるか」
「どうすれば、顧客に買わせることができるか」
「いかにすれば、顧客をリピート客にできるか」
「どのようにすれば、顧客を当社のファンにできるか」
を中心に作られています。

今の時代の消費者は、企業側の打算や計算を敏感に感じとり、企業の「操作主義」を見抜いてしまいます。この「操作主義」とは、実は、企業と顧客の関係を「対立的」に見る発想から生まれてくるものです。

本来、企業と顧客との間に生まれるべき「共感」や「感謝」「一体感」を大切にせず、企業と顧客を、「商品を売る側」と「商品を買う側」という対立的な関係として捉え、さらには、顧客を「操作の対象」と見る発想ではないか。

このことは、最近流行の「CS」(顧客満足)という言葉にも忍び込んでいる発想である。顧客を「CS」を得るための対象として見つめ、その「満足度」を高めようとする「密やかな操作主義」が生みだしたものといえます。

そもそも、商売というものが始まって以来、「お客さまの満足」を考えない売買があっただろうか。もしそれが、まともな商売であるならば、「お客さまが満足する」ということは、議論以前の当たり前のことではなかったか。

「CS」という言葉は、現在のビジネス社会が、商売の原点を忘れ、利益の追求に走り、顧客に喜ばれることの大切さを忘れてきたからこそ、生まれた言葉ではないのか。

本来、日本型経営においては、企業と顧客を「対立的」に捉える発想は、なかったとされます。それは、「主客一体」あるいは「自他一体」の心得であり、企業と顧客は、本来、一体のものとして捉えられていました。

「お客さまは、我々の心を映す鏡である」。
その意味は、「お客さま」とは、商品の売買という「ご縁」によって巡り会った大切な方であり、そのお客さまという「鏡」に映し出される自分の姿を見つめることによって、成長させていただく、という考え方です。

そのことを表した言葉が、「お客さまに育てていただいた」や「お客さまとともに成長する」とい言葉であり、価値観であった。

このことは、日本文化の中心である「おもてなし」の文化や「一期一会」の精神と結びつき、極めて深い思想に発展しているのではないか……。

以上が、田坂氏の説く、「操作主義と決別」した企業理念・企業文化、ひいては、ホームページ運営のあり方です。

あまりにも、原理・原則・理想論に過ぎて、現実の業務遂行、日常的なホームページの運営には参考にならないでしょうか。

自分としては、ネット不動産のあり方、ホームページ運営の基本を示す戦略論と受けとめました。



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