ネット不動産フロンティアノート



【第11章】ネット不動産仲介業の未来

11−(3)10年後の不動産マーケット

あるビジネスや業界について、10年後の予測や予見をする場合、二つの手法が可能であり、必要なことでもあります。

一つは、30年後にどんな変化を遂げているのかを大胆に予想し、そこから省みる、振り返ることで、10年後の変化図を描くという手法です。

もう一つは、現実の変化、変化の予兆を解明し、変化をもたらす基本的な要因、つまり存立基盤の変化について具体的に分析することで、10年後の変化図を描くという手法です。

不動産仲介業という特定の業種・業界、しかも、マイナーな業界について30年後の予測図を描くことは現実的には不可能ですし、あまり意味がないことです。

しかし、幸いなことに、不動産仲介業は国民経済や国民生活、国民の価値観に大きく影響される業種であることは分かっています。つまり、30年後の日本がどんな姿になっているのか、人口構成や経済状況がどうなるかに大きく依存する業種だということです。

だとするならば、30年後の日本の姿を正確に予測するのは無理だとしても、その向かう方向をしっかりと捉えれば、その方向性の中に不動産仲介業の姿が見えてくるのではないでしょうか。

さらに、「失われた20年」を省みることから、見えてくるものがあります。それは、冷静な見方をすれば、わが国の場合は発展途上国型の経済成長の時代が終わったということです。

歴史的に見れば、日本経済が成熟を遂げて、量的拡大ではなく、質的な充実を目ざさなければならない時代に本格的に入ったことを意味しています。

次の50年、100年は、成熟国家としての大戦略を立て、すべての発想や計画、制度を抜本的に組み替えることが求められる時代となったのです。

蛇足で付け加えるならば、わが国の政治の混迷や経済の不透明感も、すべてこの認識がないことから生じていると理解すればよく分かります。

時代がわが国の指導者層に求めているのは、経済成長戦略ではなく、成熟経済を前提とした国家戦略なのです。

指導部に「大戦略」が欠けていても、時間は進みます。時代は待ってくれません。実務・実業に責任を持つ者としては、自分の頭で考えぬき、対応策を生み出さねば、時代から置いてきぼりにされるだけです。

ここで、改めて、変化予測・戦略作成に有効だとされるシナリオ・プランニングの手法に基づいて、10年後の不動産仲介業の変化予測についておさらいをしてみます。

まず、不動産仲介業を変化させる基本的な力、根源的な力、つまり、ドライビング・ホースは何かという問いかけです。答えは、市場の変化・不動産仲介マーケットの変化が、不動産仲介業そのものを変化させるということです。

ならば、不動産仲介マーケットの変化は何によってもたらされるのでしょうか。それは、国民生活の変化そのものです。

では、国民生活の変化は何によってもたらされるのでしょうか。 住宅・土地、つまり国民の住生活に係る分野に限っても、以下の事項が今後の10年でどう変化するかが、そのカギを握っていることが分かります。

(1)わが国の経済活動と、その結果としての所得水準の変化
(2)少子化・高齢化を内包する人口・世帯構成の変化
(3)交通・通信手段の変化、特にネット社会がどう進展するのか。
(4)国民の価値観、住宅ついての意識・価値観はどう変わるのか。
(5)わが国民のライフスタイルはどう変化するのか。
(6)住宅過剰の時代にあって、中古住宅の流通マーケットはどんな変化を遂げるのか。

シナリオ・プランニングの手法は、以上の事項の分析から、10年後の不動産仲介業の姿が見えてくることを教えています。

(1)〜(5)の変化についてはすでにふれたので、ここでは、これからの中古住宅流通マーケットがどのような変化を遂げるのかを見ることにします。これからの10年は国民にとっては住宅購入のリスクが増大する時代です。その対応策の一つとして、国民の少なくない層が、中古住宅の購入という選択肢を選ぶことになり、中古住宅の流通市場が大きく拡大する時代になったことについて分析・検討します。

住宅購入には二つの大きなリスクが伴います。

一つは経済的なリスク、つまり土地価格・住宅価格の下落リスクと所得減少によるローン返済困難化というリスクです。

かつて、所得と土地価格は右肩上がりの時代にあっては、この経済的リスクが表面化することはまれでした。インフレがすべてを癒す時代だったからです。

しかし、これからはデフレの時代、地価下落の時代、所得減少の時代です。住宅購入の経済面でのリスクは必然的に増大します。

もう一つは物理的なリスクです。つまり、住宅購入時の品質面・機能面での欠陥リスクと自然災害による被災・滅失リスクです。

新築住宅については、住宅性能検査制度の普及で大きく改善されてきました。

問題は、中古住宅の品質面・機能面での検査・保証制度をどう確立するかですが、これもホーム・インスペクションの普及で解決できることです。

最大の課題であり、これから大きくクローズアップされる問題は、首都圏や東南海地方で予想される大震災時の被災・滅失リスクです。

地震保険は大震災の発生時にはほとんど役に立ちません。住宅は失う、住宅ローンは残るという悲劇が広範囲で大量に起きると予測されるわけです。

この住宅購入のリスクから逃れる方法は、大震災の予想地域に居住しないか、住宅を所有しない、つまり、住宅を借りて住むしかありません。

しかし、首都圏から東海地方までも含む、日本列島の中枢部が、大震災の予想地区であるというのが現実です。この地区を離れては、生活の基盤を失ってしまう住民は、住宅購入についてどんな行動をとると予想されるのでしょうか。

住宅購入のリスクの大きさから、住宅を購入しないという選択。つまり、賃貸住宅に住む、ローンを借りないで、住宅を借りて住むという選択をする人も当然のこととして増大するでしょう。

リスクを受け入れて、耐震性の高い新築住宅を購入するという選択肢もあるわけです。

しかし、震災リスクの高まりと、経済危機・所得減少によるローン返済リスクの増大により、二つの選択肢の中間として、ローンの負担・リスクを小さくして、自己所有の住宅に住む、つまり、中古住宅の需要が増大するという現象・傾向が増大することはまちがいありません。

目いっぱいのローンを組んで、自己所有の住宅に住むことのリスクの大きさは、東日本大震災の被災地、特に巨大津波による被災地では実証されたことです。

被災地では、3.11以後の1年で、住宅建築のための土地取引は激減し、中古住宅の需要が増大していることは、明白な事実です。

これからの10年は、首都圏の直下型地震や東南海地震についての話題が、繰り返し報道される日々が続くことでしょう。

こんな、強い追い風を受けながら、わが国の中古住宅流通市場が、拡大の速度を速めていくと予想することは、いささか不謹慎ではありますが、「確定した未来」ではないでしょうか。

ここでは、わが国の不動産マーケットにあって、唯一拡大が予想される中古住宅流通市場の現状、課題、国民経済上の位置づけ、消費税の影響について分析してみます。

わが国の中古住宅の流通マーケットは、2011年の実績予測で、金額で年間4兆円、取引件数で50万戸程度です。賃貸住宅も含めた住宅の新築が年間80万戸程度ですから、住宅取引全体の38%が中古住宅を占めることになります。

米国が77%、英国89%、フランス66%と先進国では中古住宅の流通シェアは新築住宅の流通を大きく上回っています。わが国でも、数年以内に、中古住宅の取引件数が新築住宅の建築件数を上回ることは確実です。

これから大きく伸びると予想される中古住宅の流通市場ですが、取りくむべき課題も少なくありません。

戦後の住宅政策の柱は、住宅の絶対数を増やすことでした。広さや品質よりも、建築戸数を増やし、住宅不足を解消することに重点がおかれていたわけです。

その結果として、今や、わが国の住宅総戸数は5,700万戸、世帯数を700万戸も上回るまでに、戸数は増えたわけです。

広さ、間取り、品質・性能など、問題点の多い住宅もこの絶対数(5,700万戸)には含まれているので、一概にはいえませんが、数量としては、国民の住宅需要を満たしているわけです。

10年後にこの5,700万戸の住宅ストックのうち、3%が流通市場に出回ることになれば、年間171万戸の中古住宅流通市場が形成されることになります。

もちろん、物理的な耐用年数を過ぎた、経済的にみて使用に値しない建物も30%程度はあるので、実際に流通するのは120万戸程度でしょうか。

仮に120万戸の中古住宅が市場に出回ることになれば、一戸平均830万円とみても、10兆円の市場規模になるわけです。仲介手数料だけでも7,440億円のマーケットです。

中古住宅流通市場が現在の4兆円から、10兆円のマーケットに育つための課題と対策は何でしょうか。

まず、中古住宅の流通マーケットが、未整備のまま放置されてきたことが最大の問題であり、課題であることが指摘できます。

中古住宅の流通市場は「レモン市場」、つまり、外見からは腐ったレモンと食べられるレモンの区別がつけにくいマーケットであるのが現状です。

市場の現状を反映して、消費者は中古住宅への不安感・不信感を強く持つことになります。その結果、築後30年ぐらい経過した住宅は、建物そのものは無価値とされ、取りこわされるケースが多くなるわけです。

新築住宅については、「住宅性能評価」の制度が普及し、これからは、「性能評価書・住宅履歴書」のない住宅は、「車検証」のない自動車扱いされる時代になりそうです。

問題は中古住宅です。中古住宅への不安感・不信感が世の中に強く存在するということは、消費者・住宅購入希望者が求めている中古住宅についての情報が十分に提供されていないことの反映なわけです。

中古住宅の購入を検討しはじめたお客様は、物件の品質・劣化の程度、耐震性・省エネ性能、地盤の安全性、価格の妥当性について、強い関心を持つのは当然のことです。

ところが、不動産仲介業者が、消費者のニーズに十分には応えていない、応えられないというのが現状です。住宅性能検査・ホームインスペクション能力の不足、耐震検査・耐震リフォームへの対応力不足、価格査定の不透明性、中古住宅の売買に関与する仲介業者が取りくむべき課題は多いわけです。

これからは、経済全体の成長を前提とするのではなく、成熟経済の中で、成長分野を見つけ出し、その分野に移行・特化することが求められる時代です。

中古住宅の流通マーケットは、成長が望めない不動産マーケットの中で、唯一、拡大・成長が見通せるマーケットなわけですから、業者としても、業界としても全力で取り組むことが「時代」から求められているわけです。

わが国の住宅のあり方そのものが、「作って壊す」から、「良いものを作って、手入れして、長く使う」、つまり、フロー型からストック型への転換期に入ったという時代認識が第一に求められることです。

国民が所有する住宅・土地資産は約1,000兆円です。土地価格の上昇が望めない時代にあって、せめて、住宅の資産価値が30年経過すればゼロになることを避ける方策は、国民経済の立場から見ても求められていることですし、マーケットは、その方向に確実に動きだしています。

環境への負荷低減ということも時代の要請です。中古住宅流通市場が拡大し、活性化することは、循環型社会への移行という面でも大きな役割を課すことになります。

国民の住宅観も変化しつつあります。住宅を「資産」として見る場合の価値観が変わりつつあるのです。

従来は、どうせ25年〜30年も経過すれば無価値になるのだから、住宅の手入れは最小限にしておけばいいという消極的なものでした。必要最低限のリフォームをして、そのまま住み続けるという住宅観の持ち主が圧倒的に多数派だったわけです。

ところが、積極的な手入れ、メンテナンスをしっかり実行すれば、快適な住生活を楽しむだけでなく、そのことで、住宅の「資産化」が実現できることに、少なからぬ国民が気づいたのです。

中古住宅流通業界と住宅リフォーム業界は車の両輪のような関係です。どちらも、世間一般からは不信の目で見られていることも共通しています。しかし、世の中が必要としている業種・業界であることも確かです。

かつてのように、所得が年々増加することが期待できない時代にあって、団塊ジュニアの住宅取得行動も慎重にならざるを得ません。賃貸住宅に一生住むという選択肢を志向する層が増加するにしても、それを受け入れる居住スペースを確保できる良質な賃貸住宅の供給は期待できないのが現実です。

中古住宅の流通マーケットは、まだまだ、未開拓な分野が多く残された、文字通りのフロンティア(未開の荒野)です。

解決すべき課題を多く抱えているだけ、中古住宅価格の現在のマーケットでの評価は低く抑えられ、メンテナンスさえすれば、今後数十年は使える建物が、ただ同然で手に入るというのもマーケットの一面です。

加えて、1981年(昭和56年)の耐震基準の強化以降に建てられた住宅がわが国の住宅ストックの半数を超え、地震にも強く、品質・性能も一定の基準を満たす既存(中古)住宅は、今後、毎年50万戸(共同住宅を除く一般住宅の新築戸数)増加するわけです。

家電量販店最大手のヤマダ電機が、中古住宅をリフォームして販売する分野に進出することを表明したのも、このような背景を考えるとよく理解できます。

さらに、中古住宅の流通市場には強い追い風が吹こうとしています。消費税の10%への引き上げです。現行消費税は個人間の住宅売買には課税されません。新築住宅の場合は、売り主が法人でも個人でも課税されます。

現行の消費税5%でも追い風であったのに、さらに5%上昇し10%になれば、中古住宅の個人間売買にとっては、まちがいなく強い追い風となります。

売買仲介業者にとっても追い風となります。ただし、買取・再販を行う場合は、仲介業者は法人でも個人でも課税されるわけですから、向かい風となり不利になります。

消費税引き上げの議論の中で、住宅は「消費財」ではないので、非課税にすべきだという主張が、業界から出されています。ヨーロッパの「消費税先進国」でも、たしかに、住宅についてはゼロ税率あるいは非課税、軽減税率の国が大部分です。

しかし、新築住宅の場合、住宅価格そのものは非課税品目とされても、建材や資材には課税されるわけですから、住宅の販売価格に転嫁する以外に方法はありません。

個人が売り主の中古住宅の売買については、どんな理論構成からいっても、一生一度の個人間の取引に課税することは現実的ではありません。

再度強調しますが、消費税の引き上げは、中古住宅の流通マーケットにとっては、強い追い風となります。

時代も、国民の価値観も、マーケットも、税制までも、中古住宅の流通市場にとっては追い風となり、味方をしています。

中古住宅に住むという合理的な選択をする人は、今や少数派ではなくなりつつあります。ニッチだが、リッチな物件の発掘と発見という新しい価値観に基づく住宅探しという行動は、これからの10年で多数派になる強い予感がします。



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